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太腿に這い上がってくる掌を感じ、相手の胸に手を当てようとした曹操は、ふと未だ固く合わせた孫堅の着物に気付き、帯を解こうとした。
が、その手はやんわりと抑えられた。 「すまんな、脱がされるのは好まない」 「何だと…っ」 曹操が下から睨み上げた。 その視線を笑みに流すと、曹操の胸の突起を吸い上げ、同時に彼のものを握りこんだ。 「や、は…ァッ」 噛み付くように吸い上げられた突起には痛みを伴ったが、下半身からは柔らかい快感が押し寄せてくる。 痛みを誤魔化すはずだった酒と、いつ敵になるともしれない相手との尋常ならざる逢瀬は、快感を高める要素にしかならない。 声を抑えることは出来ても、甘さを帯びた吐息は隠しようがなかった。 死を覚悟した昨夜の痛みと、生を感じる快楽の痛みとどこが違うというのだろう。 押し寄せる快感に身を任せている曹操を見下ろして、孫堅は解いた自分の帯に玉璽を巻くと、自分の足元に追いやった。 一瞬、伝国璽を足蹴にするのは気が引けたが、 『帯を巻いたし』 という、宮中の者が(もしかしたら程譜も)聞けば何の助けにもならない言い訳を心の中で繰返した。 曹操の手を取って、自分の腹に当てる。 薄く目を開いた彼は満足そうに撫で上げた。 戦時中は中々見ることのない、艶かしく白い姿態は、男であろうともそれだけで興奮を誘うに充分であったが、向こうからも積極的に触れてくるとなると尚更だった。 粘液に塗れた掌を、ひくつく窄まりに宛がい、解していく。 曹操が熱に浮いた視線を向けてきた。 「おい、まさか…そこまで」 言葉こそ抵抗を示していたが、両腕を首に回してくる男の掠れた声に、ほんの僅かな加虐心を惹き起こされた。 彼の足を引き上げ、自らの肩にかけると、荒々しく口を吸い上げるのと同時に一気に挿入した。 「んぐ…っ…ふッ」 押し殺した悲鳴が、合わせた唇の間に響く。 微かに血の味がする。 己の血だ。 首に回した腕に力が入る。 孫堅は絶え間なく腰を揺らしながら、粘液を吐き出し続ける曹操のものをも扱いていく。 衣擦れと喘ぐ呼気に寝所は満たされ、粘膜が打ち合う音が耳を突き刺す。 孫堅は掌中で、曹操は身体の中で、互いのものが硬くなるのを感じながら、互いの限界を待った。 やがて。 突き上がってくる快感に、孫堅の限界を感じた曹操は、顔の横に唇を寄せると、そっと彼の耳朶を噛んだ。 合図のつもりで、軽く噛んだ。 つもりだった。 それは確かに合図には違いなかったが、想像を超えるものが返ってきた。 孫堅は曹操の上半身を引き剥がすように自分の上体を起こすと、強く突上げると同時に再び覆い被さり、肩口に残る抉られた矢傷に舌を捩じ込んだ。 「…………ッ!」 声にならない絶叫が、白濁した体液が迸る。 密着した腰から、体内に熱いものが幾度となく放出されるのを感じながら、視界に真っ黒な帳がゆっくりと降ろされた。 先程、自分が後ろ手に降ろした、帳のように。 肩を上下に揺らしながら、孫堅は、ぐったりとなった曹操を見下ろした。 今しがたの行為で新しい血を滲ませている肩の傷から、その血を舐め取ると、そっと身体を離した。 蹴り飛ばした帯の中から玉璽を拾い上げて武具の中に隠し、手早く身支度を整え、曹操の傷に手当てを施す。 傷の深さや多さに、彼の遭うた‘昨日の死に目’とやらに思いを馳せる。 たった今まで見せた痴態は、漂う酒気が為すものなのか、戦場の狂気が為すものなのか。 気を逸らすどころか自分の方こそが、玉璽のことをうっかり忘れかけていた。 「まぁ…久しぶりに楽しんだが」 思わず苦笑いが込み上がる。 「戦が続くといかんな」 そして、曹操の身体を軽く揺すった。 「曹操殿。長居すると、夜が明けるぞ」 何度か囁くと、曹操は呻きながら目を開いた。 「貴様…」 開口一番、出てきた言葉は悪態であった。 「…化膿していたら貴様まで取り返しがつかんだろうが。馬鹿が」 情を交わした後とは思えない目で睨みつけてくる。 しかし警告はしたものの、曹操自身にも相手が始めからそうするつもりであったことは、想像に難くないものではあった。 「ふん」 そんな曹操を見て、孫堅は鼻で笑った。 「だが、よかっただろう?」 瞬時に、曹操の頬に朱が走る。 死を覚悟した痛みと、生の快楽の痛みの記憶。 「あれは中々体験できんからな。俺も楽しかった。だが」 「…ああ」 さすがに曹操は引き際を知っていた。 身支度を整えながら、新しい手当ての跡をしばらく見つめていたが、ふと、視線を感じて顔を上げると、黒曜の光が静かに注がれていた。 その光を真直ぐ返しながら、曹操は一言、いった。 「明日の朝か」 「そんなところだろう」 そして、ただ残念そうに眉根を寄せた。 |
続