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静かに、孫堅の陣所を抜け出すと、駐屯地の外れで夏侯惇が腕組みをしながら主の戻りを
待っていた。 「遅い」 ぐっと、馬の手綱を押し付ける。曹操は黙ってそれを受け取り、馬に乗ったが傷の痛みに思わず顔を歪めた。 その様子を見ていた夏侯惇だったが、何も言わずに、曹操の馬から少し遅れて自分の馬を歩かせる。 背後の気配に神経を尖らせながら、長いことその状態で歩を進めていたが、やがて駐屯地の松明が夜闇に紛れて、単騎、殿軍に控える必要もない距離に及ぶと、夏侯惇は曹操の馬に並んだ。 「それで、何か分かったのか?」 曹操が拘った光の正体を尋ねた。 「いや。結局分からん。何か尋常でないものではありそうだったが」 「何してたのやら…」 呆れ返った声音を隠そうともせず、主に対してどこまでも遠慮のない言い草だ。 二人になるといつもの事だが、それが曹操にはいつも以上に心地良く感じられる。 「大丈夫か」 「大丈夫には大丈夫だが…」朧な月影に、痛みを堪える主の表情が浮かぶ。「ちと痛いな」 「自業自得だ」 語調は完全に突っぱねていたが、夏侯惇は馬を寄せて歩を合わせると、上体を曹操に傾けながら、そっと髪に顔を寄せた。 「物になど囚われるな。お前の後ろには俺がついている。…俺以外にもな」 東の空に差し込んだ陽光は、儚い極光を掻き消すかのように、同盟軍の駐屯地に現実をもたらした。 玉璽を手にした孫堅は、袁紹の言いがかりを何とか退け、早々に全軍撤退した。 昨夜の程譜の「触れ」が功を奏して、撤収は驚くほど手早かったが為に、玉璽の話は真実であったかと袁紹は地団駄を踏んだが、既に後の祭りであった。 それから程なくして、敗走したとの報があった曹操軍が戻ってきた。 曹操は、労いの宴を設けられたものの、孫堅の離脱などを理由に同じ志で戦わないのなら意味もなし、とこれもまた即日に同盟軍を去った。 次の時世の流れが、すぐそこに迫っていた。 |
了
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