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 伊達幕営内が俄かに騒がしくなった。
 鳥居元忠からの早馬が到着して、西軍の将が、ここ、信貴山に向っているとの知らせを持ってきた
のだった。
「で、敵の数は?」
「はッ、それが未だ釈然とせず…大軍であるとも3騎のみとも言われており…」
「随分といいかげんな情報だなー」
 横合いから伊達成実が口を入れた。政宗の従兄弟にあたる男である。
「どうせならもうちっとマシな情報をくれないもんかな、鳥居のじいさん」
「成実殿」
 少し低い声で片倉景綱が諌めた。元忠への雑言があらぬ方向へ飛び火しては東軍にいる意味がない。
 が、しかし使いの者は更に頭を低くした。
「些細な事でもご報告申し上げる様、元忠様より申し付かっておりますれば、何卒」
「ああ、分かった」
 政宗は軽く右手を上げた。
「どちらにせよ、戦準備を整えておかなければならないことには変わりない。ご苦労だった。元忠殿に
宜しくな」
 早馬の使者が姿を消すと、早速成実が口を開いた。
「いいかげんな情報ではあるが、結局、少数精鋭なんじゃないのか?」
「俺もそう思う」と、政宗。「雑賀衆が来るならひとまず鉄砲隊に備えたいところだが、それも今の
話し行きでは誰が来るやら分からん。まぁ、奇襲に備えておくか」
「それが宜しいかと存じます」
 景綱が微笑んだ。
「それにしても冷えるなぁ」成実が独りごちた。「また降るかな」

 成実の予想に違わず、その日の晩は吹雪いた。
 吹雪に紛れて敵が来ないとも限らないが、ここに来るまでに元忠の陣と当る筈、と伊達陣内は
いつしか寒さ対策に重点が置かれていた。例え奥州から来ようと、寒いものは、寒い。
 そんな中、政宗は一人自戦車内にいた。
 例え出陣前だろうと点検など面倒な事は人任せなのだが、今回は珍しく自分でも見ておこう、と
いう気になった。
 モニターをつけ、肉眼探査にすると風に舞う雪しか映らない。さらに吹雪がひどくなっている
ようだ。
「こんな日に攻撃してくるヤツがいたら、バカだな。ここに来るまでに凍るか迷子だ」
 そんな様子を一人で想像してくすくす笑う。想像された人物は不本意だろうが。
「…何故」
 呟きかけて、言葉を飲んだ。
 西方についた武将にも家康や、その幕僚などと親交が深かった者はいる。
 所詮、自分とは歩む道が違う。言っても詮無い事だ。
「雪ばっか見てもしょうがない」
 コンソールを叩いて赤外線探査に切り替えた。
 途端に、車内に警告音が鳴り響いた。
「な…ッ」
 一瞬、故障かと思ったがモニターには確かに赤い小さな点が映っている。距離は近い。反射的に
砲台を向けたが、万が一、ということもあり得るのでスピーカのスイッチを入れた。
「何奴!?」
「ちょっと待てよ!」
 随分馴れ馴れしい物言いに、ぴくっ指先が動いたがすかさず
「名乗らねば撃つ」
と、呼びかけた。
「カメラ点けな」
 心なしか先程より声が近い。モニターの赤い点も近付いている。攻撃するには近すぎる距離だ。
 探査装置を再度切り替えた。
「ぅわぁッ!」
 スピーカから拡声された政宗の声が響き渡った。
 モニターに映ったのは、無精髭の壮年武将。明るい色の髪が強風に嬲られている。
「ちょっと中に入れてくれないか。寒くて敵わん」
 想像した人物とは違ったが、この吹雪の中、伊達陣内にやってくるバカが本当にいたとは、政宗も
呆れ返りつつもハッチを開けた。
 するりとその男は入ってくると
「以外と狭いんだな、この中」
と、言った。
「あんたがデカすぎるんだろう」
 政宗はにべもなく言った。
 政宗の戦車は確かに一人乗り用に設えてあったが、この時代の標準サイズならあと一人、無理すれば
二人乗れないことはなかった。
 だが、突然現れたこの男、藤堂高虎は明かに標準サイズ外であった。しかも並外れて、である。
 それにしても、本来、鳥羽海域の戦艦内に収まっているはずの高虎が、突然こんな所に現れた意図が
政宗には分からなかった。
 理屈はどうあれ、少し嫌な予感がするだけである。
「何しに来た」
 政宗は率直に尋ねた。
「うーん」
 高虎は周りの装置類を見回しながら、生返事をした。が、政宗と目を合わせると
「一人用の戦車とは伊達も面白いのを造るな。操縦席、座らせてくれないか」
と、至極まともなことを言った。
「それは構わんが…」政宗は、スピーカや探査装置のスイッチを切りながら言った。「答えになって
ないぞ」
「まァ、それはそれとして…」
 操縦席に座った高虎は、政宗を手招きした。
「寒いなー」
「暖房は入っている」
「あの吹雪の中、来たんだぜ?冷え切ってしまってるからなぁ」
「少し待てば暖まる。大体、この天候の中、ここまで来る奴がいるか」
「お、心配してくれてるのか?それなら、ここに座ってくれるだけでいいから」
と、高虎は自分の膝を指差した。
「何を」
馬鹿な事を、と言いかけて不意に腕を捉まれ、引き寄せられた。
 政宗は高虎の膝の上に倒れこみ、すかさず高虎は政宗の背中に肘をついた。
「高虎殿っ!これはいくらなんでもっ」
「えーだってー」と、高虎。「素直に座ってくれればこんなことしないのに。あー、あったかい」
 政宗の抗議に、にこり、と人好きのする微笑を返す。
「やっぱり冬山で温め合うって言ったら人肌だよな」
「俺に聞くなぁっ!」
「おや、政宗殿はご存知ない。不肖、この高虎、先んずる者として実践をもって教えて差し上げ
ましょう」
「この状況で、俺に聞くなと言ってるんだっ」
 政宗はもがくが、抜け出す事が出来ない。
「大体、貴様俺の問いに答えてないだろう!って、この、やめろって!」
 もがく政宗をものともせずに高虎は器用に腰帯を解き始めた。
「一国の主ともあろうものが一人でこんなところにいるとは、景綱も甘やかしすぎだな。それとも
お前、誰か待っていたのか?」
 政宗は、ふともがくのを止めた。高虎を見上げると、片方しかない目をすっと細め、口の端を
上げた。
「貴様じゃないのは確かだな」
「こういう時のお前ってホントに可愛くないなぁ」
 真面目な顔で返されて、政宗は眉をひそめた。
「可愛い、などと言う高虎殿の気がしれん」
「可愛いものは可愛いんだから仕方がない。俺は誉め言葉のつもりで言っているし、お前もその内、
誰かにこういう気持ちを抱く事があるだろうよ。…さて」
 高虎は、政宗の脚の間に手を差し入れた。
 う、と政宗がうめく。
「お前が人の膝の上でバタバタするから、俺のここも落ち着かなくなってきた。責任とれよ」
「勝手な事を…ッ」
 高虎の大きな手が自分の脚の間で巧妙に蠢くのを感じるが、ひんやりしていて、政宗の神経も
快感には至らない。頭の芯は冷めたまま、本当に寒かったのかな、とぼんやり考えた。何しろ、あの
雪の中を来たのだから。
 瞬間、
「あったかくて気持ちいい」
 高虎がにっこり笑った。
 政宗の頬に朱が走った。
「今、少しでも貴様に同情した自分が恨めしいぞ!放せッ」
「何を今更」
 高虎は行為を止める気などさらさらない。政宗の袴をさらりと落とすと、上半身を屈めて、耳元に
唇を寄せた。
「お前も指だけでイきたくないだろ?」
 政宗は横目で軽く睨むと、無言で高虎の腰帯を解いた。背中から高虎の腕の力が抜けたのを感じて
すっと立ち上がると、高虎の膝を跨いで座ろうとする。
 これには高虎もいささか唖然として
「おいおい、いきなり大丈夫か?」
と、尋ねた。
「今日はあまり気分が乗らないからさっさとすませたい」
「そうか」
 政宗は高虎の眼に嫌な光を見たような気がしたが、敢えて無視した。
 高虎は、政宗の腰を抱えるといきなり自分のものを突き刺した。
「くっ…!」
 更に愛撫もなしに容赦なく突き上げる。
 政宗は総毛立った。気分が乗らないから感じそうにない、と思ったのに、身体は高虎に合わせて
昇りつめていきそうな感覚に気持ちがついていかない。
 行為が終わるのをひたすら待つか、いっそ身を任せるか、一瞬迷った表情が高虎の目には悩ましく
映った。
 こうした事が初めてではあるまいに、あまりに気のない態度にむっとした高虎だったが、自分を
受け入れて必死に耐えているかのような表情を目の前に見ると、もっと虐めたくなってきた。
 政宗の直垂をはだけると、胸の突起物に舌を這わせた。
「あぁッ!」
 突然、政宗が声を上げた。
 挿入している時にここを刺激すると、何故か過剰に反応するのだ。更に唇で咥えて舌で舐め廻す。
「はっ…た、高虎…っ」
 すっ、と唇を放すと、政宗がやや睨みつつも潤んだ瞳で目を合わせてきた。この一瞬に顔が上気
している。高虎は満足した。
「高虎…そこはやめろ」
 声は上ずっているくせに相変わらずの口調に、高虎は刺激された。
「やめない」
 この男は解っているのだろうか。何気ない一言や行動が、俺の気持ちを煽っていることに。いや、
解っていないからこそだ。
 高虎は再び、乳首を咥えた。
「あっ、あああッ」
 普段、聞くことのない上ずった声に高虎が充実感を憶えたその時、政宗の左腕が風を切った。
「い…ッいきなり何だ!」
 高虎は思わず右頬を押さえた。眼鏡が車内の角の方で、カシャン、といった。
「やめろ、と言ったらやめろ」艶然と微笑む政宗。「中途半端なところで止めたくなかったらな」
 高虎も笑みを返しつつ、床を指差した。
「じゃ、せめてそっちに移動していいか?この操縦席は狭すぎるみたいだぜ」
「まぁ、いいだろう」
 吹雪はまだ止みそうにない。
 信貴山は、長い夜を迎えようとしていた。

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