| 学生会室の窓から差し込まれる陽の光が赤味を帯びてきて、夕暮れが近いことを知らせていた。遠くから学生の声が聞こえてくるようだが、定かではない。 ここに1番響く音は、紙を捲る音。ペンが紙の上を走る音。ゴム印をスタンプ台に叩きつける音…。 また、丹羽は逃げ出した。会長の仕事を放棄して。 いつもなら探しに行くところだが、何故か今日はそんな気になれない。 そんな気にはなれないが、いつもより激しい怒りが湧いてくる。 いつも小手先の言い訳をして、あいつはそれで済むと思っているのか。適材適所にも程がある。苦手な事も克服しなくてはこれから先、どうやっていくつもりなのか。せめてその努力くらいはすべきではないのか。現学生会会長という立場から言ってもだ。 それとも。 まさか俺があいつを甘やかしすぎているのか? 小言はいつも言うが、結局、大抵の書類事は俺がこなしている。この状況にヤツは甘えているのではないか。意識的にかどうかは別にして、だ。 ふん。 1度、厳しく言って聞かせる必要があるようだ。言っても聞かないなら、身体に分からせるまでだ。 トントン。 ノックの音がしたかと思うと、ドアが開いた。 「中嶋さん…今、いいですか?」と、啓太。部屋をぐるりと見回して「あれ、王様出かけてるんですか?」 「いつも通りにな」 丹羽に対する怒りが収まらない俺は無愛想な声で答えた。 「何の用だ、啓太?」 「仕事、一杯あるんですか?」 啓太は俺の質問に答えず、机の上を眺めている。 「俺、手伝いましょうか?」 特に用というほどでもないらしい。俺が1人で書類整理をしているようなら手伝おうということか。中々殊勝な心掛けだ。丹羽に是非見習ってもらいたいものだ。 啓太の何気ない申し出が、少し怒りを和らげたようだ。この整理を何が何でも済ませようという気持ちが落ち着いた。 「いや、これはもういい。今日はもう片付ける」 「え、いいんですか」 「丹羽の分も残してやらんと、あいつも寂しいだろうからな」 「明日、王様がここに来た時の顔を見てみたいな」 そう言って、啓太は笑った。 が、ふと笑い止むと俺の目を見ながら歩み寄ってきた。そして、椅子に座っている俺の膝の上に跨ぐように、向かい合わせに座った。 「どうした」 普段ならとてもやりそうにない。 「何だ、“お仕置き”して欲しい事でもあるのか」 俺は意地悪く言ったつもりだったが、どうしたことか啓太は俺の目を見つめたまま、微笑んだ。 「違います」 いつもと違う啓太に少し興味を引かれて、俺は聞いた。 「何が違うんだ。言ってみろ」 そして、啓太はまた俺の質問には答えずに、俺の胸に頬を摺り寄せた。 「中嶋さん、大好き」 質問に答えない、など許す俺ではないが、何故か今はこのまま啓太を見ていたい気持ちになっていた。 啓太は、俺のブレザーとベストのボタンを外したが、脱がせることなく俺の脇から両腕を差し入れ、背中に回す。啓太の掌がシャツ越しに背中を這い回る。 「中嶋さん…好き」 うっとりした眼差しを上げてきた。左手が胸元に回ってきてシャツを掴んだ。 キスをしようと顔を少し傾けると、啓太が伸び上がってきて俺の唇を甘噛みした。何度も焦らすように、啓太も唇を使って甘噛みしてくる。そして、 「好き…中嶋さん」と、啓太が囁く。「大好き」 「どうした今日は。何を甘えている」 俺も囁き返した。その間も、啓太は俺の唇を舐めたり、甘噛みしている。そうしながら、吐く息が熱い。 「あの…怒らないでくださいね」 「それはどうかな」 俺も舐め返す。 「たまには、“お仕置き”とか“ご褒美”とかじゃなくて、俺も甘えてみたかった…んです」 最後は小声になった。甘噛みを止め、上目遣いで俺を見る。その仕草があまりにも可愛い。 「だって、いつも『俺のことしか考えられないようにしてやる』って…中嶋さんから言ってしまうから、俺、たまにはこうして…言わないと…」 俺は啓太の唇を、俺のそれで塞いだ。啓太がすかさず舌を差し入れてきた。更に俺のネクタイを緩め、シャツのボタンを外し始める。俺も啓太のネクタイに手を伸ばすと、突然、両手で俺の肩を押し返した。 「待って、中嶋さん。俺は…後で」 「もう、こんなにしておいてか?」 啓太の股間を弄りながら言った。 「いいんです。我慢して…中嶋さんに色々してもらうの、好きだけど…今日は俺が色々してあげたい」 啓太は薄く舌なめずりした。それが、今まで見たこともないような、啓太とは思えないような艶やかさだった。こいつにこんな表情が出来たとは。 「だって、今日は中嶋さんの誕生日だし」 そう言って、啓太は俺の胸に唇を這わせた。膝の上に座ったままだから、あまり広範囲にはならない。そして舌先で尖った所をつついたり、転がしたりする。掌が俺の股間に降りてきて、ズボン越しに、既に怒張し始めたものを弄る。 俺は、何も出来ないのが焦れったくて、啓太の髪をかき回した。 それが合図になったかのように、ズボンのジッパーを下ろし、布越しに弄っていたものを引っ張り出した。 「それから、お願いがあるんです…」 熱い息を俺の胸に吐きかけながら、啓太は言った。目は俺のそれを捕らえているが、指は動かすのを止めない。 俺の誕生日に、と言っておきながら俺にお願い事か。 「中嶋さんの誕生日だからこそ…」 「言ってみろ」 俺は啓太の耳元に囁いた。出来るだけ熱っぽく。俺が感じていることが伝わるように。 「後で、ケーキを一緒に食べてください」 *** 「!」 俺は、両目を開いた。 …いや、さっきまで目は開けていて………。 しかし、俺の双眸に映っていたのは、あるのかないのか分からないくらい薄暗い天井だった。まだ、夜も明けていない。 夢。 いやにリアルな夢だった。 色や、音、啓太の体温… こんなに鮮明な夢を見たのは初めてだった。 いや、待て。リアルだったのは、丹羽が逃げ出していたところからだ。こんな夢にまで出てくるほど気になっていたとは、自分でも驚く。この件に関しては、もうそろそろ決着を付けなければならないようだ。 変、といえば俺自身が変だった。 啓太に良い様にされて黙っていたとは。 だが、まぁあれはゆくゆくは、良い。いずれ、あいつからも求めるように仕向けるつもりだし、今はまだ、早いだけだ。 ただ、ケーキは…。 「誕生日…か」 別に甘いものを好んで食べる気などないし、どうせ食べるのなら、啓太だけでいい。 啓太だけでいいのだが、少し考え込んだ。 そういえば、あいつは甘いものが好きだっただろうか。 啓太をケーキにして食べるのなら、良い。 飲んだくれたオヤジのような駄洒落に思わず自嘲の笑みが浮かぶが、啓太に生クリームを塗って、舐め回すのもいいかもしれない。全身分など、無論、舐めきれるものではないからいっそ乳首と局部だけでいい。羞恥に染まったあいつの顔が、俺を煽り立てるのだ。 その時、俺の股間に違和感が走った。 そういえば、夢の中がいい所だったので俺のモノは現実に怒張していた。そこへ妙な想像をしたものだから益々テントを貼ってしまったようだ。 自慰行為ならともかく、この歳で夢精は遠慮したい。 そういう意味では、あの啓太の頓狂な台詞もむしろ許せる。 俺はトイレに立った。 *** そして、夜が明けた。 確かに、今日は俺の誕生日だが男同士でそう滅多に祝うものではない。大体、互いに憶えてないのが普通であり、現実だ。 現に、今日も丹羽は逃げた。いつも通りだ。 昨夜、あんな夢を見たせいだろうか、今日は仕事を片付ける気になれず、恐ろしいほど効率が悪かった。もういっそ止めてしまおうか、と思ったその時、規則正しいノックの音が響いた。 「入れ」 「こんにちは」 ドアを開けて入ってきたのは、予想に違わず、伊藤啓太だった。 「あれ、王様出かけてるんですか?」 「いつも通りにな」 俺は答えた。 「王様、あんまり逃げてばっかじゃいけないと思うんだけどなぁ」 と、呟きながら書類を数枚、捲って見る。 「仕事、たくさんあるんですか?俺、手伝いましょうか」 生クリーム…が、ここにあれば。 「え、何か言いました?」 啓太がきょとんとして、俺を見た。 「いや…なんでもない。今日は、もう止めようと思っていたところだ」 俺は立ち上がって、ドアに近付いた。施錠の音に啓太がぎょっとして振り返った。 「あの…中嶋さん?」 曖昧な笑みを浮かべている。俺も、微笑み返した。 「生クリームは、お前のでいい」 「は!?」 筋書きは違うが、正夢にしてやることにした。 「今日は俺の誕生日なんでな」 俺は啓太の右腕を掴んで引き寄せた。 「そうだったんですか!?」 啓太は本気で驚いた様子で、俺を見た。が、 「おめでとうございます、中嶋さん」 と、にこりとして言った。こんなところは度胸がある。 「じゃあ王様、益々ひどいですね。こんな時くらいちゃんと仕事すればいいのに…」 「お前もそう思うだろう?」 が。飛んで火に入る夏の虫な上に、墓穴まで掘るとは…かわいすぎて只では帰したくなくなる。 「だが、こうしてバースデーケーキが飛び込んで来てくれたから、今日のところは丹羽は許してやる」 「バースデーケーキぃ!?いッ」 俺は啓太の耳を噛んだ。 「生クリームは自家製でな。いや…生クリームというよりは生ミルクだがな…クク」 啓太の、羞恥に染まった顔に気を良くした俺は行為に没頭することにした。 より、俺が満足するまで。 今日は付き合ってもらおう。 <了> ■中嶋くん、お誕生日オメデトサンv あのー…まぁ、中嶋くんにはあんまりストレートに喜んでもらえそうにない話ですけど(^^ゞ そして、読者さまにもどうか…何かちょっと“下品”入ってしまってますので、楽しめなかった方にはごめんなさいとしか言いようがないのですが(>_<) 書いてて自分は楽しかったんですけどネ。折角、中嶋くんの一人称にしたので、もう少し心理描写を入れた方が、よりお楽しみいただけたのでは、と反省。「それ、ちょっとムリがあるんじゃ…」ってとこはノリで読破してくださるとありがたいです! |